君と再び出会える奇跡信じて



『この桜並木で、また会おう』


そんな事無理だって分かってる。
離れてしまえば、もう二人には二度と戻れない。
彼女が上京することになった。
夢を叶えるため。
俺には止められない。
いや、止められない。彼女の夢だからこそ。

進路を共にした。
彼女は、東京の学校に、どうしても行きたかった。
もう長い付き合いだから、夢の大きさは良く分かっていた。
僕は二つ返事で、二人で東京を目指そう。そう言った。
ここ3ヶ月くらいは、週に1度ほど会うだけで、二人ともに勉強に明け暮れた。
『合格したら、一緒に住んじゃうか?』
本気で考えていた。
学校は違えど、それならいつまでも一緒にいられるから。

俺は、物件情報のパンフレットを投げ捨てた。
いくつか入ったが、ほとんどはゴミ箱に蹴られた。
「こんな事って・・・。」
机の上にあるのは、東京の大学の合格通知。
二人で合格通知を手に持って撮った写真。
その後に倒れた母親。
俺にとって唯一の親が倒れた今、俺はこの場所から動くことなんてできなかった。

「ごめんな」
「しかたないよ。」
そー言って、少し泣いていたのは君で、その後に泣き出してしまったのは僕だった。
大切な夢。
やっぱり二人では追うことはできなくて。
夢の影だけが、ゆっくりと伸びていく。
言葉は、それ以上語れなかった。
たった1つの光を失うのが怖かったから。

僕らは、最後にこの桜並木道を歩いた。
舞い散る花びらに君が隠れてしまいそうで、何度も、手から伝わる温度、確かめた。
これから先の『離ればなれの時』埋めたくて。
だけど、夢に向かう君を、僕で縛りたくなくて・・・。
『永遠』という言葉を信じたくて。
離れても、また繋がる奇跡信じたくて・・・。
だから、別れの言葉は使わなかった。
君の重荷になってしまっても、と考えても。
最後まで使わなかった『さよなら』
例え、君にとって『過去の人』になったとしても・・・。

もう、今は一人。
君はもう、夢を叶えるために飛び立った。
もうあれから4つの季節が過ぎたね。
まだ君は頑張っているかな?
僕はまだ、君との別れが『イエスタディ』としか思えないよ。

踏み出す足。揺れる花びら。
手を伸ばせばいつでも君の手があるようで。
感じるようで感じない。
もう君は遠くなったんだ。

僕の横を、一人、また一人と通り過ぎて行く。
立ち止まってるのは僕一人・・・。
ポツポツと降りかかる桜。
頭に積もっては落ち、舞っては僕へと帰る。
「なぐさめてくれるの?」
いつの間にか泣いていた僕に、惜しみもない吹雪が舞い落りて、まだ心に残る 『イエスタディ』かき消して。
例え世界が汚れてしまっても、きっと、君との『イエスタディ』は綺麗なままだね。



「やっと、会えたね。」
包んでいた桃色の世界が風になると、一つの光が僕へと差し込んだ。
「なんで・・・。」
「約束、したよ。この桜並木道で会おうって。」
「学校・・・は?」
「今は春休みよ。少しだけなんだけどね。」
差し出された温かい手が、そっと、僕を包み、実はこんな事が起こらないかと期待して いた自分に気づいて。
あの時と一緒・・・。
違う・・・きっと。
昨日が終わり、また新しい明日へ。
ようやく進みだした。とても重い足を。
これからもまた、二人で歩いていけるんだね。
この桜並木道を。一人じゃない。二人手を繋いで・・・。




●管理人より

この作品は、5月5日に開催予定の文章祭のサンプルとして用意したものです。
15分程で書き上げたものですので、ストーリーも大したものではありませんが
良かったら参考にしてください。





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